海外の医療事情
アメリカとオーストラリア

 高齢化社会の進展に伴い、日本の医療体制は大きな転換期を迎えています。こうした状況下で、海外諸国がどのような課題を抱え、どのような医療制度を確立しているのかに着目することは、その国の生活や未来の方向性が見えてくることにつながります。本記事ではアメリカとオーストラリアに注目し、両国の医療事情を詳しく紹介します。海外との違いを知ることで、日本の医療制度についての理解をさらに深めましょう。

アメリカ編

 日本の公的医療保険が全国民を対象とするのに対し、アメリカは65歳以上の高齢者、障害者、および低所得者に限られます。現役世代の多くが公的医療保険の対象外であるため、民間保険に頼らざるを得ず、この医療体制が医療格差を生む要因となっています。
 アメリカは、日本と同様に受診する医療機関を自由に選択できる「フリーアクセス」を導入していますが、医療費は受診機関によって大きく変動します。また、救急車が有料である点も特徴的です。

医療制度

 アメリカの公的医療保険には「メディケア」と「メディケイド」の2種類があります。メディケアは65歳以上の高齢者と障害者、メディケイドは低所得者を対象としています。このように公的医療保険の対象者が限定的であるため、現役世代を中心とする国民の多くは、雇用主提供の団体保険や、個人で加入する民間保険によって医療費負担をカバーしています。
 しかし民間医療保険は種類やプランによって利用できる医療機関や医療サービスが限定されるため、事前確認が必須です。緊急時やかかりつけ医以外の専門医を受診する際には、民間保険に対応している病院や医師を探すという手間が発生します。
 さらに日本のような公的介護保険も存在しないため、国民は個人で介護保険に加入する必要があります。しかし保険料が高額であったり、加入審査をクリアできなかったりといった理由から加入率は低いのが実情です。

アメリカが抱える課題

 アメリカが抱える課題として顕著なのが「医療負担が高額であること」と「医療格差」の2点です。公的医療保険に加入できない現役世代の医療費が高額になることや、救急車費用が有料であることなど、自己負担額の大きさが課題として挙げられています。かつてオバマケア(医療保険制度改革法)によって医療保険への加入が義務づけられましたが、罰金を支払うことで未加入を選択することも可能でした。そのため、金銭的な理由から医療保険の未加入者が依然として多いのが現状となっています。
 また、医療費が医療機関や医師によって自由に決められることも、医療負担が高額になる一因です。民間医療保険に加入していても、患者が一時的に高額な医療費を立て替えるケースも発生しています。こうした金銭的理由により、国民が十分な医療ケアを受けられない医療体制が、医療格差を生み出す原因となっています。

国民に向けた健康対策

 肥満や疾病対策の一環として、アメリカでは「食事ガイドライン」を掲げています。5年ごとに改訂されるこのガイドラインは、学校給食や病院食などの基準になっており、国民の健康意識の向上を促しています。最新版である2025~2030年版食事ガイドラインには「たんぱく質が不可欠であること」「未加工の自然食品を重視すること」など、より分かりやすく踏み込んだ内容が記載されています。
 また食生活だけではなく運動習慣の指針も「身体活動ガイドライン」にて示されています。成人に対しての有酸素運動の推奨量を明確に記載することで、国民の健康を守り、医療費を削減することが目的です。

オーストラリア編

 オーストラリアはGP制度(かかりつけ医制度)を採用しており、医療機関を受診する際には、GPの診断を受ける必要があります。GPの判断に基づき、必要性が認められれば、専門医や公立病院の受診が可能となるのが一般的な流れです。
 指定された治療内容や金額に限りがありますが、GP受診・診断による紹介先医療機関での医療費は無料、もしくは少額負担で済みます。受診の際の一連の流れが確立されているのがオーストラリア医療の特徴です。

医療制度

 日本では、気になる症状に合わせて内科や眼科などの専門医を直接受診しますが、GP制度を採用しているオーストラリアでは、必ずGP(かかりつけ医)に受診します。そこでGPの紹介状を得ることで、初めて専門医を受診できるようになります。
 公的医療保険は日本と同じ国民皆保険(メディケア)を採用していますが、その対象はオーストラリア国籍保有者と永住者のみです。保険料は、基本的に課税対象所得の2%が徴収されますが、所得水準や家族構成によって差額が生じます。国民皆保険では歯科治療などはカバーされないため、治療内容によっては一部自己負担が生じるケースがあります。
 国民皆保険でカバーされない医療費をまかなうために加入するのが民間医療保険(プライベート保険)です。民間医療保険に加入することで、公的医療保険では賄えない医療費を支払えるため、患者側は安心して医療サービスを選択できるようになります。

オーストラリアが抱える課題

 GP制度は、医療受診の一連の流れをスムーズにするメリットがある一方で、いくつかのデメリットを抱えています。課題の一つは、GPが必ずしも専門医ではないこと、そして患者側が治療内容の選択が難しいという点です。もし自身が求める専門的な治療を受けたい場合は、高額な自己負担を担う必要があります。
 また、医療従事者の人員不足も深刻な課題です。人員不足により、GPの予約に時間がかかるケースも発生しています。さらに、GPによって緊急性がないと判断された場合、専門医の受診までに数ヶ月から1年近く待たされることもあるのが実情です。

DX化が進む医療体制

 医療従事者の不足や受診者の急増によりGP機関の予約が困難になるなど、医療アクセスに課題を抱えているオーストラリア。課題解決の取り組みとして「医療DX化」や「デジタルヘルスの導入」が進められています。
 インターネットを活用した医療DX化は、患者と医療機関の情報共有を円滑にする利点があります。スムーズな医療提供を促進することで、必要なケアを迅速に受けられる環境を整えることが狙いです。
 デジタルヘルスの導入によって実施されているのが「電子健康記録」「電子処方箋」「遠隔医療」の3本柱です。これらの機能の導入により情報が一元化され、必要な情報を正確に共有することができます。遠隔医療では電話やビデオ通話による診察が可能となり、地方間の医療格差をなくすことが期待されています。

対照的な2国の医療制度から日本の今を見つめ直す

 民間保険中心のアメリカと、GP制度を軸とするオーストラリア。両国は対照的な制度設計のもと、「医療アクセスと負担」のバランスにそれぞれ違う答えを出しています。違いを知ることは、当たり前と感じている日本の医療体制を、改めて捉え直す視点を与えてくれるはずです。