患者に寄り添う時間を生み出すために
ロボットと創る未来型クリニック
2024年10月に開設した「用賀きくち内科 肝臓・内視鏡クリニック」は、日本初の自律走行型ロボットをはじめ、最新技術や医療機器をいち早く導入。地域医療の持続可能性を追求し、未来を見据えた新たな診療体制の構築に挑戦しています。
その目的や取り組み、将来ビジョン、想いについて菊池医師に話を伺いました。

職種間の業務の隙間を埋め 医療の緩衝地帯を支えるロボット
少子高齢化や医療需要の増大に伴い、大きな転換期を迎える医療業界。医療事務や受付、看護補助といった非専門職の採用が非常に困難な一方で、医療DXの進展により事務業務は複雑化しています。これらの課題を解決するのがクリニックロボットです。
「単に人員増強や業務の効率化では対応できない段階にきています。必要なのは医療の流れを再設計し、人的資源を補完する新しい基盤技術、ロボットに業務を委ねる構造転換です」
同クリニックが2025年12月に導入したのは、業界初の自律走行型ロボット「ATOI」。 USEN─ALMEX(U─NEXT.HD)と連携して実証実験を行っていますが、従来のロボットとは目的が大きく異なります。ファミレスなどで見かけるのは運搬ロボットで、大病院でも導入が進んでいます。一方、ATOIは事務業務を担い、スタッフの一員としての働きに重点を置いたクリニックに特化したロボットです。
「クリニックにはドクター・看護師・事務の3つの職種がありますが、自分の専門以外の領域に手が回らなくなることが現実に起こり得ます。私は開設当初から〝医療界のマングローブを目指そう〟と言い続けてきました」
マングローブは淡水と海水が混ざり合う汽水域に発育し、豊かな生態系を育んでいます。医療においても緩衝地帯に目を向け、力を注ぐことがクリニックの発展につながると考え、緩衝地帯を支える存在としてロボットを迎え入れました。
人の価値の最大化を図り 橋渡し役と司令塔の役割を果たす
当初、スタッフからは「自分たちがやった方が早いのではないか」という議論もありましたが、ロボット導入には3つのキーフレーズがあると菊池医師は言います。
1つ目は「人の価値の最大化」。医療者の本業は患者に寄り添った診断や治療、点滴や採血といった医療行為です。ロボットがルーチンワークを行うことで、人にしかできない仕事に集中できる環境を創り出せます。2つ目は「職種をつなぐ橋渡し役」。医療現場では、それぞれの職種の連携の質が医療の質を左右します。ロボットは検査への誘導や事前問診などを担い、ワンチーム医療を支えます。3つ目は「チームの流れを最適化する司令塔」。これまで混雑状況の可視化や待ち時間の調整などは医療の質と安全性に直結するにも関わらず、人的労力に依存してきました。ロボットはクリニック全体の流れを整え、空間とチームの最適化を実現することができます。
「最も大きな成果を上げているのは、大腸カメラの下剤説明です。一人当たり7~8分を費やしていましたが、すべてロボットが対応することで看護師は他のケアに従事できています。これは非常に大きな変化だと感じています」
独自の診療運用モデルを構築し
待ち時間の最小化と診療精度の最大化を
ロボットをはじめとする最新設備をいち早く導入する背景について、「診療に必要な情報を最短時間に揃える独自の診療運用モデル〝ファストトラックフロー〟を提唱し、診療の流れを再設計しています」と語ります。具体的には、約10分で結果が出る迅速生化学採血分析機「ドライケム」、筋肉の量や基礎代謝など全身を測定する「InBody」を軸に患者のデータを一元管理。診療前にすべてのデータを「見える化」することでスピーディかつ最適な診療につなげています。
「肝臓、生活習慣病、ロコモを統合的に評価する当クリニックでは、医療情報をすべて揃えることが、診療の質を決定づける最重要要素となるからです。チェックインからアウトまでを60分以内に収めることが目標です」
しかし、現実的には診療の流れを阻むボトルネックがあります。混雑時にも流れを止めない実装エンジンとなるのがロボットの役割。ファストトラックフローは〝待たせない診療の仕組み〟であり、ロボットはその仕組みを支える〝案内役〟。この両輪により、患者にとってストレスや負担の少ない新たなモデルの構築を目指しています。

ロボットは地域医療の
持続可能性を支える基盤インフラ
ロボットがさらに育つことで、どのような変化を期待しているのでしょうか。
「私の診療をしっかり理解するロボットをつくり、診療スタイルや理念、想いをレガシーとして残していく。将来にわたり普遍性を持って正しく継承され続けることは、非常に大きな意義を持ちます」
このように医療の未来は、人とロボットが対立するのではなく、互いの強みを補完しながら医療の質を高めていく〝協働モデル〟があるべき姿。ロボット導入は単なる設備投資ではないと強調します。
「人材不足への構造的対応、医療安全の強化、地域包括ケアの基盤整備、さらには医療者の専門性の保護を同時に実現する未来への投資です。ロボットは人を生かし、チームをつなぎ、空間を整える存在。そして地域医療の持続可能性を支える基盤インフラであると考えています」
菊池医師からは、人間らしい医療に集中し、患者に寄り添いながら質の高いケアを提供する医療の本質を持続していきたいという熱い想いを強く感じました。