閉院後の暮らしから逆算する、
自宅兼クリニックの「出口」

「まだ診療しているから売れない」—— その思い込みを越えて。
ある開業医ご夫婦が、終活のなかで選んだ「第三の道」を追う。

「あと何年、診療を続けるのか」。長年地域に根ざしてきた開業医のご夫婦が終活のなかで、そう考え始めたときに見えてきたのは診療の終え方だけではありませんでした。不動産、住み替え、老後資金、相続 —— それらが一体となって絡み合う現実でした。

本記事では、自宅兼クリニックという特殊な資産の「出口」を、急ぐことなく、借入にも頼らずに整えた一例をご紹介します。

終活で見えた、一体の悩み

 きっかけは、いわゆる終活でした。「あと何年、診療を続けるのか」「閉院後はどこで暮らすのか」「今の建物を夫婦だけで維持し続ける必要があるのか」「子どもたちにどのように資産を残すのか」「相続が発生したとき、家族が困らない状態になっているのか」――。こうしたことを考え始めると、診療の終わり方だけでなく、不動産・住み替え・老後資金・相続が一体で関わってくることが見えてきました。私たち夫婦が所有していたのは、長年クリニックとして利用してきた自宅兼用の建物です。しかし、医院を引き継ぐ家族はおらず、第三者への承継も容易には進みませんでした。
 一方、妻には強い希望がありました。「閉院後は、今より管理しやすい住まいに移りたい」「夫婦で静かに、身の丈に合った暮らしをしたい」「子どもたちに不動産で迷惑をかけたくない」「元気なうちに、できる整理をしておきたい」。そうした想いから住み替え先を探し始めたところ、これからの暮らしに合いそうな物件に出会いました。しかし、ここで大きな壁にぶつかりました。新居の購入には現在の建物の売却代金を充てる必要があります。一方で、その建物ではまだ診療が続いており、閉院時期も定まっていなかったため、すぐに明け渡すことはできませんでした。急いで終えれば、患者にも家族にも負担がかかります。次の暮らしへ進みたいという気持ちと、すぐには終えられない現実との間で、身動きが取れない状況でした。

「売る」か「住み続ける」かの二択ではなく、
 条件を工夫すれば、その両方を一定期間 両立できる場合がある。

「売却」と「使い続ける」を両立する
 転機は、売却後も一定期間、現在の建物を使い続けられる条件を検討したことでした。一般的な売却では契約後、一定期間内に明け渡しが必要になります。ですが、診療中のクリニックでは、患者への案内、関係先への連絡、設備や資料の整理など、すぐには終わらないことが多くあります。そこで不動産会社に依頼して、買主候補を幅広く探し、建物の利用状況や将来の開発可能性について説明を受けながら、売却後も一定期間利用できる条件を調整しました。先に資金を確保しつつ、閉院準備が整うまで診療と生活を続けられます。急いで閉院する必要がなくなったことで、患者への案内や関係先の整理を落ち着いて進められ、妻も気に入った住み替え先をあきらめずに済みました。

リースバックという選択肢
 そこで採った対応は「リースバック」というものでした。建物を買主へ売却すると同時に、その買主と賃貸借契約を結び、引き続き同じ場所で診療と生活を続ける仕組みです。今回は売却後の一年間を賃貸期間とし、その間に閉院や移転の準備を進めることで合意しました。所有者ではなくなりますが、まとまった売却資金を先に受け取りながら、住み慣れた場所で診療を一定期間続けられます。「売ってすぐ明け渡す」でも「売らずに住み続ける」でもない、まさに第三の道でした。

売り方を変えれば、価値も変わる
 建物を単に売りに出すのではなく、周辺環境や敷地条件、将来の用途まで含めて検討しました。自宅兼クリニックは、住宅として見るか、事業用・開発用地として見るかによって評価が変わります。築年数だけでは評価が伸びにくい場合でも、立地や買主の事業計画次第では、より前向きな条件を引き出せる可能性があります。通常の居住用不動産とは異なる視点で出口を考えることが鍵となります。

借入に頼らず、整理で資金をつくる
 当初、建物を担保にした借入も考えていました。ですが高齢になってからの新たな借入は、毎月の返済負担や閉院後の収入減、相続時に借入と不動産が残る家族の負担など、慎重な検討が必要です。売却条件を工夫し、利用継続や買主選定を丁寧に行うことで、借入に頼らず住み替え資金を確保できる可能性があります。結果として、気に入った住み替え先を購入し、閉院準備の時間を確保しながら、老後資金にも余裕を残すことができました。

税理士と連携し、相続まで見据える
 不動産の売却では、価格だけでなく「手元にどれだけ残るか」が重要になります。このケースでは不動産会社が顧問税理士と連携し、売却後の手残り資金や相続対策、生前贈与など、活用できる制度まで確認しました。個別の税務判断は税理士の領域ですが、両者が連携することで、単なる売却にとどまらず、売却後の資産整理まで見据えた検討ができました。

CHECK
こんな方は、一度ご相談を

□ 自宅兼クリニックの出口を考え始めた
□ 閉院は未定だが数年内に整理したい
□ 売却したいが、すぐには明け渡せない
□ 老後資金と相続をあわせて整理したい