医療法人化するなら知っておきたい
設立手続きのスケジュールと検討事項

開業後、経営が安定してくると、節税対策や分院展開などを目的として医療法人化を検討するケースが増えてきます。一方で、医療法人の設立には認可申請や各種手続きが必要となり、事前準備が不十分な場合は設立時期が半年以上遅れることもあります。本稿では、医療法人設立の手続きとスケジュールの概要に加え、設立前に最低限検討しておきたいポイントについて解説します。

 医療法人設立には都道府県知事の認可申請が必要で、申請受付は年2回程度の限られた期間に実施されます。
 例えば東京都では、仮申請の受付は3月と8月の年2回のみで、申請に向けては約3か月前から準備を開始する必要があります。一般的に、医療法人化の検討開始から認可取得・法人設立までは約6か月、さらに診療所開設や保険医療機関指定、社会保険加入手続きまで含めると約10か月を要します。円滑な法人化を実現するためには、早い段階から法人形態や役員構成、財産承継などの重要事項を整理しておくことが重要です。

医療法人化の準備として検討しておくべきこと

◆ 医療法人の形態

 医療法人には「社団医療法人」と「財団医療法人」の2種類があります。社団医療法人は人の集まり、財団医療法人は財産の拠出によって設立されます。実務上は、設立時に財産を寄附する必要がある財団医療法人は少なく、現在設立される医療法人のほとんどは社団医療法人です。また、現在新たに設立できるのは「持分のない社団医療法人」のみとなっています。

◆ 医療法人名

 医療法人名に特別なルールはなく、「○○会」が一般的ですが、「医療法人○○医院」などの名称も使用されています。ただし、都道府県によっては既存の医療法人との重複が認められない場合や、名称の理由を求められる場合があります。また、医療広告規制の観点から、「○○センター」「○○グループ」「第一○○」「優良○○」など、誇大な表現を含む名称は使用できません。

◆ 役員構成

 医療法人には、原則として理事3名以上、監事1名以上を置く必要があります。理事の中から理事長を選任し、法人運営を担います。一方、監事は理事の業務執行を監査する立場であるため、理事やその親族、法人の従業員、顧問税理士などは就任できません。医療法人化を検討する際は、理事長・理事・監事の候補者を早い段階で選定しておくことが重要です。

◆ 社員構成

 社団医療法人における「社員」は、一般企業の従業員ではなく、社員総会を構成する法人の意思決定メンバーです。社員総会で重要事項を決定する権限を持ち、理事や理事長の選任・解任も行います。なお、社員の議決権は出資額に関わらず1人1票であり、原則として3名以上の社員が必要とされています。そのため、誰を社員とするかは将来の法人運営や事業承継にも影響する重要な検討事項となります。

◆ 拠出財産

 医療法人の設立には診療所運営に必要な財産の確保が求められます。設立認可申請では、現預金や医療機器など診療所運営に必要な資産を有しているかが確認されるため、運転資金を含めた財務基盤を事前に整理しておくことが重要です。なお、運転資金は医業費用の2か月分程度が目安とされており、十分な預金残高を確保しておくことで申請手続きを円滑に進めやすくなります。

◆ 負債の引継

 医療法人化にあたり、個人開業時代の借入金やリース債務を医療法人へ引き継ぐことがあります。しかし、すべての負債が承継できるわけではなく、原則として医療機器や設備など、法人へ引き継ぐ資産の取得に伴う負債が対象となります。一方で、運転資金として借り入れた負債は個人に帰属するものとされ、法人への引継ぎが認められない場合があります。
 また、引継ぎの対象となる負債は、その借入金によって取得した資産を法人へ承継することが前提となるため、借入日は当該資産の取得日以前である必要があります。負債と資産の関連性を証明するため、借入契約書や領収書などの資料を保管しておくことが重要です。
 さらに、負債の引継ぎには金融機関やリース会社など債権者の承諾が必要となります。引継ぎ漏れがあると、法人化後も個人に返済義務が残り、資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。そのため、医療法人化を検討する際は、借入金やリース契約の内容を早めに整理し、金融機関等との協議を進めておくことが重要です。

◆ 決算期

 医療法人の決算期は任意に設定することができます。
 ただし、ひとつ忘れてはいけないのは、決算期の設定によって税金の金額が変わってくるケースがあることです。
 例えば、時期によって利益に差があるのであれば、利益が大きくなる繁忙期前に決算日を設定することで税務上有利になるケースがあります。内科であればインフルエンザ予防接種の需要が高まる11月前の10月末決算、耳鼻咽喉科であれば花粉症シーズンが始まる2月前の1月末決算といった考え方もあります。
 また、医療法人の設立事業年度では医療法人の決算期の設定次第で、個人開業医時代の最後の確定申告と医療法人の最初の決算それぞれで概算経費特例の適用を受けられる可能性があります。決算期はすぐに変更できますが、過去に税金対策で損してしまったお金を取り戻すことはできません。税理士等の専門家と相談しながら適切な決算期を設定することをおすすめします。

 医療法人化は、単なる節税対策ではなく、将来の事業承継や分院展開を見据えた経営上の重要な意思決定です。設立認可申請の準備を進める際は、法人形態や組織体制、財産・負債の承継方法、決算期などを早い段階から整理し、専門家と連携しながら計画的に進めることが重要です。