海外の医療事情
台湾とアイスランド
台湾とアイスランド。医療のかたちは、その国の暮らし方や社会の条件を映す鏡です。本稿では、2つの国の医療の現場をのぞき込みながら、制度がどう動き、どこに課題が生まれ、どんな工夫で支えられているのかを追いました。違いを比べることで、私たちの医療の「当たり前」も少し違って見えてくるはずです。

台湾編
DX化(デジタルトランスフォーメーション化)が進み、医療費が安価でありながら高い技術力を誇る台湾。世界的に見てもトップクラスの医療水準を提供する国として注目を集めています。英語や日本語でコミュニケーションが取れる医師が多いことも特徴です。
台湾が導入している医療制度やDX化の取り組み、そしてこの国が抱える課題について紹介します。
少子高齢化が進む台湾
高い医療水準を誇る台湾ですが、国として早急に取り組まなければならない課題があります。それは深刻な「少子高齢化」です。超高齢化社会の進展に伴う労働人口の減少は、現役世代一人ひとりの社会保障費の負担増を招きかねないため、大きな問題となっています。
特に、台湾の出生率は0.89と世界最低水準を記録しており、低下が止まりません。一方で医療の発達により平均寿命は延び続けています。日本でも少子高齢化は進んでいますが、15歳未満の人口比率の減少については、台湾の状況がより深刻です。この人口構造の変化は、医療・福祉サービスの需要増と社会保障費の歳入減少を同時に引き起こし、数年以内に社会保障制度が赤字になる可能性があるため、早急に解決策を練る必要があります。
国民の生活基盤に関わるこの問題は、国を挙げてITを活用したコストダウン、すなわち医療DX化の推進といった抜本的な対策が不可欠です。
全民健康保険制度を導入
台湾が高い医療水準を維持している理由のひとつが、日本の国民健康保険にあたる全民健康保険制度(ユニバーサルヘルスケア)の導入です。衛生福利部中央健康保険署が管理しており、給与天引きで保険料を徴収し、財源を確保しています。
全民健康保険制度は一部の免除者以外は強制加入です。国内に満6ヶ月以上滞在している外国人も加入義務があります。
医療費の個人負担は基本的には約35%。割合でみると日本と同じくらいの水準ではありますが、もともとの費用が安いため個人の負担額は少ないです。任意のワクチン接種や歯科矯正治療、美容整形などを除いて、ほとんどの治療が全民健康保険に適用されます。
他国で取り入れているようなホームドクター制度は台湾にはありません。そのため、紹介状がなくても大きい病院への受診が可能です。医療負担額が少ないこと、好きな病院に気軽に受診できることから、場所によっては混み合う傾向にあります。
課題解決のために進むDX化
急速に進む台湾の超高齢化社会。増え続ける社会保障費の財源確保のために行う税負担の増加は、国民の反発を招くため極力抑える必要があります。そのために国を挙げて取り組んでいるのが、ITを活用したコストダウンです。台湾が得意としているDX化を進めることで、ペーパーレス化などを加速し、少子高齢化による財源圧迫に歯止めをかけることを狙います。
台湾の医療DX化は海外から高い注目を集めています。その象徴的な取り組みが、国民の99%が保有している健保カードの活用です。加入者が保有している健保カードには全ての病歴、医療記録や検査結果、処方履歴が集約されており、そのデータをクラウド上で一元管理しています。これにより各病院間において、患者情報の円滑な情報共有が実現できているのです。
アイスランド編
世界幸福度ランキング(2022年)で146ヵ国中3位と、国民の生活満足度の高さをうかがえるアイスランド。火山や氷河、オーロラなどの圧倒的大自然が魅力的な観光大国です。そんなアイスランドの医療事情について、日本とアイスランドを比較しながら、制度や課題について解説します。
アイスランドが抱える医療課題
医療機関のほとんどが国営であるアイスランドの医療水準は高いものの、医療従事者不足が課題として挙げられています。特に深刻なのは看護師不足です。都市部では比較的、適切な治療を受けられる環境が整っていますが、地方では迅速な医療提供ができないことがあります。
併せて医療課題のひとつとして挙げられているのが、抗うつ薬の使用率です。これはアイスランド特有の気象が関係していると言われています。日照時間が極端に少ない冬は「冬季うつ」の患者が増え、日照時間がとても長い夏は冬とのギャップにより体調を崩す人が増える傾向にあります。
医療制度
ホームドクター制度
日本では受診する医療機関を自由に選択できますが、アイスランドはホームドクター制度を導入しています。この制度はイギリスや北欧諸国でも取り入れられています。
国内に6ヶ月以上居住する際、7つに分けられた医療地区内の医療センターに属している医師の中からホームドクターを選択します。地域分けされていますが、どの地域からも選択可能です。緊急を要しない限り、まずはホームドクターの診療を受ける必要があります。専門的な治療を受けたい際にはホームドクターの紹介が必要です。
アイスランド健康保険(IHI)
アイスランドをはじめとした北欧諸国では、税金を財源とした健康保険制度(IHI)を導入しています。6ヶ月連続で滞在していれば外国人でも加入資格を得られます。財源となる税率(24%)は、世界的に見ても高いことで知られていますが、医療費の個人負担は16%と低額です。高齢者や障害者の歯科治療費は半額または全額、健康保険(IHI)が負担します。
日本でも健康保険制度を導入していますが、税金ではなく、国民が加入している保険料から財源を確保しています。
子どもの医療費無料
アイスランドは育児がしやすい国としても定評があります。その理由は0~18歳の医療費が無料であること、そして出産時の通院・出産・入院にかかる費用も無料であることです。病院での食事代に一部負担が生じることもありますが、出産・育児に優しい制度が確立されています。
国が掲げる健康対策
国民の健康、財源を守るために国を挙げて次のような対策をしています。
アルコール依存症対策
アイスランドに限ったことではありませんが、北欧諸国において国民のアルコール摂取量が問題視されています。その対策としてアイスランドでは専売公社制を導入しました。アルコールを扱う店舗を制限し、日曜日や深夜は店舗を閉め、物理的に購入を制限しています。
砂糖税の導入
肥満・虫歯予防の対策として砂糖税を導入しています。砂糖税とはソーダや菓子類に含まれている糖分量に対して課税される税金のことです。製品改善や消費率改善を目指し、国民の健康を守り、国が負担する医療費を抑えることを目的としています。
医療の未来は、「仕組み」と「運用」で決まる。
台湾とアイスランドは条件こそ違えど、「限られた医療資源で質とアクセスを守る」という共通の課題に向き合っています。2国の事例は、制度設計と運用の工夫をどう組み合わせるかが、医療の未来を左右することを教えてくれます。
