医師のセルフケア
Doctor’s self-care

医師の忙しい日常に、身体と心のリフレッシュを。
臨床家・鍼灸師の若林理砂さんが、簡単にできる
セルフケアをご紹介します。

お灸の効果を手軽に再現
心身の健康を保つためには、日々のセルフケアが欠かせません。「とはいえ、なにをしたらいいのかわからない」「時間がない」という方におすすめなのが、ペットボトル温灸です。火を使わないため院内でも安全に行えて、手軽にお灸と同じ効果を得られます。
使用するのはキャップがオレンジ色のホット専用ペットボトル。大きさに関係なく、先に水を3分の1、次に沸騰したお湯を3分の2の割合で入れれば準備完了です。これで湯温が70~80度となり、お灸と同様の温熱刺激を与えられます。
やり方も簡単。ペットボトルをツボ付近に当て「アチッ」と思ったら離し、また当てる。これを3~5回繰り返すだけです。肌に当てる時間は長くても5秒。衣服の上からでは効果がないため、素肌に直接当てるようにしてください。「アチッ」という感覚が刺激となり、患部の血流を促します。
ツボの位置が正確にわからなくても大丈夫です。ペットボトルの側面や底面を使ってだいたいの位置に当てれば、十分に効果を得られます。何度も繰り返してツボの位置がわかるようになったら、角を使ってより小さい範囲でツボを狙うと効果が高まります。
1日1回のペットボトル温灸。日々の健康維持に、ぜひお役立てください。

不眠改善に
失眠
かかとのちょうど真ん中にあるツボです。神経の高ぶりを鎮める効果があり、寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚めるといった症状を緩和します。靴下を脱ぎ、ペットボトルの底面を失眠のツボのあたりに当てましょう。「アチッ」と思ったら秒数にこだわらず離す→また当てる→離す。これを3~5回繰り返します。ペットボトルを持ちかえて、反対側の足も同様に行ってください。あるいは、ペットボトルを横に倒して床に置き、かかとで踏んでもOK。かかとは感覚が鈍いため、当てすぎに注意しましょう。
ペットボトル温灸を行なう時間に決まりはありませんが、失眠の場合は就寝前がおすすめです。冷えやむくみが改善し、快眠につながります。

ストレス解消に
百会
頭のてっぺんにあるツボです。自律神経を整え、ストレスやイライラを軽減する効果があります。両耳を結んだ線と、鼻から上に通る線が交わるところが百会。左右の耳の先端に親指をそれぞれ置き、頭の形に沿って中指を曲げ、指先がぶつかった場所に、ペットボトルの側面や底面を当てます。ただし、のぼせやすい体質の人は要注意。百会に熱を加えると逆効果になるため、ペットボトル温灸は控えてください。
代わりに「爪楊枝鍼」を使用します。爪楊枝を20本ほど用意し、先端をそろえて輪ゴムでしっかりと束ねればできあがり。尖ったほうを百会に軽く当て、トントンとリズミカルに10秒ほど刺激しましょう。1日1~2回が目安です。

全身を整える
足三里
ひざのお皿の下の外側にあるくぼみから、指4本分下がったところにあるツボです。触ってみると少しへこんでいるのがわかります。胃腸を整え、消化不良や下痢、便秘といった症状を緩和します。血流を改善し全身の疲れをとる働きもあるため、万能穴として扱われています。
かの有名な俳人・松尾芭蕉も、足三里にお灸をすえながら旅を続けたのだとか。旅の紀行文『奥の細道』の序文に「三里に灸すゆるより、松島の月まづ心にかかりて」という一節があります。
当て方は他のツボと同じです。ペットボトルを持ちかえて、反対側の足も同じように行いましょう。

text & interview: 山本ヨウコ illustration: 立川恭太郎