ジョグジャカルタ
王宮文化と世界遺産が息づく“平和の街”へ
ジャワ島に息づく
多様な宗教と文化の歴史
インドネシア、ジャワ島。面積は本州の半分強の約128,000k㎡、南緯7度29分30秒に東西1,040kmに延びる細長い島です。古代から海を通じて外国との交易が盛んだった現在のインドネシアには、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教、キリスト教と時代の流れの中で様々な宗教や文化が伝来しました。それらは列島各地に暮らす民族の土着宗教、アニミズムや文化風習と時には対立し、時には融合しながら独特の信仰や哲学が発達してきました。こうしたシンクレティズムは現在のジャワ島においても根強い傾向があり、型にはまった宗教観や価値観では語れない信教と信仰のダブルスタンダードの形成につながり、奥深いジャワ民族の風習や考え方を知るうえでの重要なファクターになっています。
王宮文化が色濃く残る特別州
ジョグジャカルタ
ジャワ島のちょうど中央あたりに位置するジョグジャカルタは、インドネシアで唯一現在でも地域王室制度が存続していてスルタンと呼ばれる王が州知事を務める特別州です。人口約370万人のうち約97%がジャワ人で、1,000人以上が王宮従事者と言われています。悠久のジャワの歴史の中で誇り高い王宮文化、伝統が継承されているジョグジャカルタはそうした意味でインドネシアの中でとても特別な地域なのです。
世界最大級の仏教遺跡 ボロブドゥール寺院
ジョグジャカルタを拠点とする観光の中で世界一有名な場所はボロブドゥール寺院遺跡でしょう。ボロブドゥール寺院は世界最大級の仏教寺院でその建立は780年頃に始まったと言われています。しかしその後のヒンドゥー教、イスラム教の次々の伝来にいつしかジャワ島における仏教は衰退し、ボロブドゥール寺院遺跡も長い間土に埋もれ知られざる存在になるのでした。それを発見、発掘したのがシンガポールの創設者で当時のジャワ総督代理だったトーマス・スタンフォード・ラッフルズです。建立から1,000年以上も経った1814年のことです。その後20世紀に入り国際的な機関も加わり本格的な発掘や修復作業が行われると民族や宗教の壁を越えて守るべき貴重な遺産との認識の下、周辺の遺跡群と共に1991年に世界文化遺産に登録されました。

ボロブドゥール寺院の構造と宇宙観
ボロブドゥール寺院は丘の形状を利用した9層のピラミッド型の構造になっていて、それは仏教における三界を意味しているとされています。最も下の層が一辺約120mの基壇で欲や物質が存在する欲界、その上5層の方形壇は清浄な物質は存在するけれど欲望は無い色界、そしてその上が欲とも物質とも離れ精神のみとなる無色界とされる3層の円形壇です。ボロブドゥール寺院では、煩悩の世界から階段を上り釈迦の物語を表したレリーフが装飾された回廊を周りながら最上階まで行くことでこの欲望を持たない最上位まで昇ることを意味しているとされ、巨大な曼荼羅(まんだら)だとも言われています。人口の9割近くがイスラム教徒と言われるインドネシアですが、ボロブドゥール寺院遺跡は現代でも重要な仏教寺院であり、毎年5月か6月の満月の日には世界中から僧侶たちが集い仏教大祭「ワイサック」の儀式が行われ、ランタンが上げられます。夜空に浮かぶ光の様子は言葉を失うほど美しく観光で訪れる人々も事前申し込みで参加ができます。
プランバナン寺院
― ヒンドゥー教建築の傑作
ボロブドゥール寺院より少し後、8世紀から9世紀頃に建立されたプランバナン寺院遺跡もまたジョグジャカルタ観光では必ず訪れたい遺跡です。1991年に世界遺産に登録されたプランバナン寺院遺跡群はジョグジャカルタ中心部から東の同エリアに点在するヒンドゥー教と仏教の寺院群で、そのメインがプランバナン寺院遺跡です。プランバナン寺院にはヒンドゥー教の三神一体の神を表す3基の主要祠堂があります。中央に位置するのが高さ47mで最も大きなシヴァ寺院、宇宙の破壊と再生の神シヴァを象徴する寺院です。その左右には宇宙の創造をつかさどる神ブラフマーを象徴するブラフマー寺院、宇宙の維持をつかさどる神ヴィシュヌを象徴するヴィシュヌ寺院が並んでいます。天に向かい揺れる炎の様にも見える壮麗な姿は朝もやの中、日中の晴天下、ライトアップされた夜間などどの時間帯でも美しく印象的です。乾季には星空の下に浮かぶ幻想的なプランバナン寺院遺跡を背景に屋外劇場で上演されるラーマヤナ舞踊も必見です。

ジョグジャカルタ王国の成立と王宮の魅力
ところで、ジョグジャカルタの誕生は今から約270年前にさかのぼります。1703年から1755年まで続いた3度のジャワ継承戦争において当時中部ジャワに存在したマタラム王国がジョグジャカルタ王国とスラカルタ王国に分割され、ジョグジャカルタ王国には初代スルタンのハメンクブウォノ1世が誕生しました。ジョグジャカルタという名前は「平和の街」という意味があり、現在のスルタンは10代目のハメンクブウォノ10世となっています。ジョグジャカルタの観光ではこの現役スルタンが存在する王宮も外せない訪問先です。一般客や観光客にも解放されているので博物館を見学したり伝統衣装に身を包んだ警備員や料理の支度をする人々など王宮に仕える人達の様子を実際に観ることができるのです。

宇宙観に基づく都市計画と世界遺産登録
さて、1755年にジョグジャカルタ王国が誕生すると、初代スルタンのハメンクブウォノ1世は都市計画を構想しました。ジョグジャカルタの北方には現在も噴煙を上げ続ける活火山ムラピ山がそびえ、南方にはインド洋があります。ハメンクブウォノ1世はこれら山と海を結ぶ軸線上に街の中心となる王宮を構えました。この思想は北の山から王宮への道が神に与えられたもの、南の海から王宮までの道が親から与えられたもの、それらが中央の王宮で交じり合いバランスの取れた平和となるという独自の哲学に基いていると言われ、王宮の北と南に街を象徴するモニュメントも配置しました。この都市構造がまた新たな世界遺産「ジョグジャカルタの宇宙論的枢軸とその歴史的建造物群」として2023年に登録されました。歴史的建造物群の中にはかつて王宮に使える女性たちが水浴びをするために建てられたという水の宮殿などが含まれます。
「平和の街」を旅して感じる時間
ジョグジャカルタを旅する時、南海の近くに位置する空港から標高2,930mという迫力のムラピ山を北に望みます。歴史的な建造物が溢れる街の佇まいの中を宗教の垣根を越えた様々な信仰や風習が残る悠久のジャワ。「平和の街」ジョグジャカルタでそれぞれの心の中にある平和についてふと考えてみたくなる、そんな時間を過ごせたら素敵なことではないでしょうか。
