未来を拓く心臓医療
AIと挑む、田村雄一医師の道
診療と起業で挑む、新時代の心臓医療 田村医師が拓く、AI×医療の未来像
「心臓病診療を受けられない患者さんを世界からなくす」
その強い思いを胸に、臨床現場に立ちながら起業家としても挑戦を続けるのが、循環器内科医・田村雄一医師です。
専門とする肺高血圧症・肺血栓塞栓症の診療に加え、AIを活用した長時間心電図解析ソフトウェア「SmartRobin AIシリーズ」を開発。
診療と経営の両輪を担う日々の中で、大切にしている人生観やライフワークスタイルとは。

専門領域を志した人生の選択
「心臓病ゼロ、その夢を追いかけて」
田村医師が医学を志したのは高校時代に同級生が脳腫瘍を患った経験がきっかけでした。
「身近な友人が病と闘う姿を見て、支えたいと思った。それが医学を選んだ最初の理由です」と振り返ります。
その後、心臓領域に惹かれた背景には「心臓の鼓動や循環の仕組みが、物理学的にとても興味深かった」という思いがあります。専門領域とするのは肺高血圧症や肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)などの難病。肺高血圧症は、100万人に1人程が発症する難病で、男性より若年の女性のほうが発症する確率が高いと言われます。かつては余命が短かったですが、現在は10年、15年と元気に暮らせる患者が増えました。未来のある若い患者を支える医療に大きなやりがいを感じています。
一方、専門医が少ない難病の患者は、細やかで迅速なサポートが受けづらいという問題を抱えていました。田村医師は2011年の東日本大震災の体験を経て、ライフラインとしてのIT活用の大切さに気づき、早くから遠隔診療の可能性に注目。コロナ禍前からオンラインで患者支援体制を整え、地域や国境を越えた医療の可能性を探ってきたのです。
臨床と起業を両立する理由
「患者の未来を守るための挑戦」
臨床現場で課題を突きつけられる中、「自分の手で解決策を形にしたい」という思いが芽生えました。2015年頃からAIを活用した心電図診断の自動化に関する研究に着手。特に心房細動は高齢者の5%が罹患する疾患であり、放置すれば脳梗塞や突然死のリスクを伴います。
「診断済みは100万人ですが、同じくらい未発見の患者さんがいる。放置すれば命に関わるからこそ、早期発見・早期治療の仕組みを作りたかった」と強調します。
その思いから設立したのが「株式会社カルディオインテリジェンス」です。掲げるビジョンは「心臓病診療を受けられない患者さんを世界からなくす」。医師不足や医療格差を、テクノロジーとイノベーションで埋めるため、長時間心電図解析ソフトウェア「SmartRobin AIシリーズ」を通じ、誰もがどこにいても診療を受けられる未来を描きます。
心電図解析にAIを選んだ理由
「テクノロジーで変える医療現場」
起業から製品化までの道のりは容易ではありませんでした。AIは必ずしも万能ではないため、 「百発百中ではないが、イベントの絞り込みには強い」という特性を理解したうえで現場に適合させる必要がありました。
「AIをどこまで信じ、どう導入すれば医療現場で生きるのか。その見極めが一番の壁でした」といいます。何度もトライアンドエラーを繰り返し、現場のワークフローに馴染む形を模索。 「SmartRobin AI シリーズ」はクラウド提供型で、場所を問わず心電図データ解析や遠隔診断が可能です。MFER形式の波形データに限り、機器メーカーを問わず解析可能です。さらに定期的にアップデートを行い、医師からのフィードバックを迅速に反映できる仕組みは「従来の医療機器では考えられなかった革新」だといいます。
現場の医師からは「従来よりも作業が効率的になった」「見逃し防止に役立つ」と評価されています。特に長時間心電図解析は従来、人手や時間、診療報酬の制約で普及に壁がありましたが、AIによる自動解析で在宅医療や専門外医師でも診断支援が可能になりつつあります。
日々の診療と経営の両立
「現場で気づいた人生の大切なこと」
現在も週2回外来に立ち、若手医師と共に病棟患者を診る田村医師。自身が現場で製品を使い、その課題を開発へと即座にフィードバックしています。
「医師と開発者、その両方の視点を常に行き来することが、自分のスタイルになっています」と語ります。
一方で、生活のバランスも重視しています。週1回のジム通いで体を鍛え、海外出張や学会では写真撮影を楽しむ。10年前のフランス留学で触れた「ゆったりとした生活」や「議論を重んじる文化」は、今の仕事観にも影響しています。
「忙しいときほど、他者の声に耳を傾けることを大切にしています。コミュニケーションを怠ると、気づきやイノベーションの幅が狭まってしまうからです」と穏やかに微笑みます。
家族の支えも欠かせません。起業当初から妻が理解を示し、スタートアップの挑戦を楽しみながら応援してくれたといいます。
「外の世界や趣味、家族との時間を楽しむことが、自分のバランスを整えるうえで不可欠ですね」と語ります。
業種を超えて仲間たちと紡ぐ世界
「医療の未来を共に描くために」
カルディオインテリジェンスは今後、心電図解析にとどまらず、他の検査分野や国際展開を見据えています。初期費用を抑えたクラウド型モデルは、医療機器の在り方そのものを変革しつつあります。国内外での導入実績を積み重ねながら、この1~2年を勝負の時期と捉えています。
「起業を通じて多様な人や考え方に触れ、成長できた」と振り返る田村医師。 「医療現場に閉じこもらず、外の世界に触れることや、趣味や家族との時間を大切にする。そうすることで、自分の視野が広がり、患者さんに還元できるものも大きくなります」と語ってくれました。
挑戦とリフレッシュを両輪としながら、新しい医療の未来を描き続ける田村医師。その姿は多くの示唆を与えてくれます。
