診療所M&Aの基礎知識
ネームクリアまでの流れ
前号では、診療所のM&A仲介会社の選び方についてご説明をしました。今回はM&A仲介会社を選んだ後、本格的にM&A検討を進められるネームクリア※までの流れをご説明します。
※買い手が売り手にクリニック名などの詳細情報の開示を求めること

お問い合わせについて
1.問い合わせをしてアポイントを取る
通常はM&A仲介会社に連絡をしてアポイントをとります。(本稿をご覧の方はシンリョウまでお問い合わせください。安心してご相談いただけるよう医療機関様専門仲介会社にお取次ぎします。)この際に名乗ることにご心配をされるかもしれませんが、それなりに実績を有しているM&A仲介会社であれば、その情報の重大さは理解していますし、最初の面談で機密保持契約を締結する流れですので、クリニック名やお名前をお伝えして、クリニック現地でのアポイントを取ることが多いです。
この際、面談の日程や時間は休診日や診察終了後など、スタッフ様に見られないタイミングで設定しましょう。
2.機密保持契約を締結する
アポイントの初めに、機密情報をお互いに守ることを約束するために機密保持契約を結びます。この機密保持契約を締結しても費用は一切かからないことがほとんどです。
3.仲介契約書を締結
機密保持契約を締結後、コンサルタントからM&Aの流れの説明や、手数料の話を聞いて、納得した上で仲介契約書を締結します。仲介契約書も完全成功報酬の会社であれば締結をしただけでは費用が発生することはありません。
4.売り手の希望のヒアリング
譲渡時期、譲渡価格、スタッフの今後について、譲渡資産から除きたいもの(個人パソコンや開業時にもらった贈り物など)、自身の継続勤務などについて希望をお伝えします。その他にもコンサルタントから概要書を作成する為に様々な質問を受けたり、設備の写真を撮ったりします。
5.依頼資料の引き渡し
決算書、役員名簿、平面図、社員総会議事録、リース契約書、賃貸契約書などの資料の引き渡しをします。これは初回面談で説明を受けた後日に郵送やPDF送付する場合もあれば、事前に依頼を受けており、面談時にお渡しする場合もあります。
ここまで終えると、後日コンサルタントからノンネームシートと概要書が送られてきて、お相手探しが始まります。
ノンネームシートの作成について
初回面談が終わったら、M&A仲介会社はノンネームシート(具体的にどの医療機関かわからないようにしながら、案件特徴を伝えるシート)を活用して買い手探しを始めます。
※ノンネームシートとは
医療機関を売却する際に、M&A仲介会社は様々な方面から買い手を探すことになります。売り手の情報を出す際に、例えば不動産のように「渋谷区の〇〇クリニック」と名称や住所を出して買い手を探してしまうと、売却情報が外部から広がり、そのクリニックに通っている患者さんを不安にさせてしまったり、働いているスタッフに焦りや不安を与えてしまいます。
しかし、ある程度情報を開示しないと買い手を探すことは出来ません。その為、誰が見てもどこのクリニックか分からないが、診療科目や売上など、ある程度の情報は分かるようにまとめたものがノンネームシートです。
ノンネームシートはどの程度の情報を記載するかが非常に重要なポイントです。ノンネームシートの記載する内容は薄すぎても問い合わせが入りにくく、詳細に記載すると特定され易くなってしまいます。記載内容については、魅力的な内容になるように、コンサルタントとしっかり相談をして決めていくことが大切です。
また、後々トラブルが生じないようにノンネームシートの記載内容は、必ず売り手側が確認してから開示しましょう。
ネームクリアについて
医療機関M&Aを検討し、仲介会社と話を進めたことがあれば、「ネームクリア」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。M&Aでは、具体的な案件がわからないノンネームシートにて買い手探しを行います。その後、買い手候補から問い合わせが入り、ネームクリア(クリニック名や概要書などの詳細情報の開示)を求められて、売り手が承諾をした相手にのみ情報を開示するという流れが一般的です。
ネームクリアをする際には、一般的にはまず買い手から名乗ります。仲介者を通じて、買い手が現在の所属と名前を伝え、その後、承諾がとれた場合にのみ、売り案件の詳細情報が開示されます。
ネームクリア時の留意点
1.ネームクリアをするリスク
❶ 買い手のリスク
開業を考えていることが売り手に伝わることになります。ただし、買い手の情報を売り手が外部に漏らした場合、機密保持契約違反となり、場合によっては損害賠償の対象になります。
また個人で現在勤務中の買い手の場合は、将来転職や開業を考えていることが漏れるのは困ることになりますが、例えば分院展開を積極的に行っている医療法人などの場合、継承をしての分院展開を考えているということが広まることをそこまでのリスクと考えていない法人もいらっしゃいます。
❷ 売り手のリスク
万が一、情報漏洩した際には従業員や患者さんなどに知られてしまうので、損害が大きいです。リスクを最小限に抑える為にも、情報管理を徹底している仲介会社と取り組むことは当然のこととして、複数候補からのネームクリアの依頼があった際などは開示する優先順位を設けるなども必要です。
2.ネームクリアを断られるケース
買い手がネームクリアの依頼をして名乗ったものの、売り手が開示を断るケースもあります。その例についてご紹介します。
❶ 買い手が知り合いだった場合
買い手はネームクリアを求める時点では、ノンネームシート上の情報しか知らない為、売り手が誰なのかを把握していません。しかし、その買い手が売り手と知り合いだった場合に売り手はお断りをすることがあります。理由としては、M&Aを進めていく中で、概要書を開示した時にクリニックの売上や役員の年収、接待交際費の金額まで知られてしまう為です。売り手が知り合いにそこまで見られてしまうことを嫌がり開示を断ることがあります。
❷ 競合、連携先の場合
直接の知り合いではないですが、例えば買い手候補先が同じ駅で開業している競合の場合も断られてしまうことがあります。理由としては、概要書を開示した際に売り手の患者数や、どういう疾患の患者さんが多いかなどの経営情報が買い手に渡ってしまうことを恐れるからです。
ネームクリアは、必ず承諾しないといけないものではなく、売り手は断ることも出来ます。ただ、買い手からすれば、継承をしたいという情報を売り手に伝えたとしても、機密保持契約を締結しているので情報が漏洩することを過剰に心配する必要はなく、仮に断られてしまったとしても、ネームクリアに費用が発生することはないのが一般的です。そういったことも踏まえて、現在興味のある案件があり、ネームクリアするか迷っているのであれば、まずはネームクリアをしてみてはいかがでしょうか。
終わりに
本記事では、問い合わせからネームクリアまでの流れをご説明しました。お役立ていただければ幸いです。また、繰り返しにはなりますが、シンリョウでは事業承継を安心してご相談いただけるコンサルタント会社のご紹介が可能です。お気軽にご相談ください。