診療所の廃業とM&A
どちらを選ぶべきか
廃業コストやM&Aの注意点
後継者がいないと「診療所を廃業するしかない」と思い詰めてしまいがちです。しかし、最近ではM&A(第三者承継)という選択肢を選ぶ医師も増えてきています。診療所の廃業にかかるコストや必要な手続き、廃業ではなくM&Aを選んだ場合の注意点について、分かりやすく解説します。

診療所の廃業にかかるコスト
診療所の廃業には、合計で数百万円から1,000万円超に及ぶ多額の廃業コストがかかることが多いです。たとえば次のようなコストが発生します。
- 不動産の取り壊し費用
- 内装の原状回復費用
- 不動産の賃貸借契約の解約金や違約金
- 医療機器や医薬品の処分費用
- 従業員への退職金や解雇予告通知の支払い
- 登記費用
- 残債の返済、リース代の清算
- 税理士や社労士、司法書士への行政手続きなどの報酬
- 初診を断り、患者様を外に紹介をする間の赤字
診療所の廃業コストは、次のような項目に応じて変わってきます。
- 不動産を所有しているか、借りているか
- 借りている場合の解約金や違約金の有無
- 医療機器は売却が可能か、処分するしかないのか
- 常勤スタッフの人数や勤続年数
- 退職金規定の有無
- 中退共への加入の有無
- 顧問契約をしている税理士が対応できる業務の範囲
一般的に、不動産の取り壊し費用や賃貸の場合の原状回復費用だけでも、数百万円はかかります。また、長年勤めた常勤スタッフが数人いる場合、退職金の合計額も数百万円に及ぶことがほとんどです。これらの積み重ねで、診療所の廃業コストは1,000万円を超えることも珍しくありません。
診療所の廃業で必要な手続き
診療所を廃業する場合、必要に応じて、次のような機関に届出を提出しなければなりません。
- 保健所
- 厚生局
- 支払基金(国保、社保)
- 都道府県
- 税務署
- 都道府県税事務所
- 医師会
- 医師国保
- 年金事務所
- 労働基準監督署
- ハローワーク など
手続きを専門家に依頼する場合、報酬を支払う必要があります。自分で手続きをすれば、廃業コストは抑えられますが、ただでさえ廃業準備で忙しい時に、手続きのための時間を確保するのは至難の業です。また、万一手続きに漏れや誤りがあった場合、廃業後にトラブルになってしまう可能性もあります。
診療所の廃業手続きは、一般企業と比較しても複雑で、特殊性が高いことから、対応してくれる専門家を探すのも一苦労です。精神的にも金銭的にも、大きな負担があることを覚悟しておきましょう。
廃業とM&Aのどちらを選ぶべきか
「後継者がいない」という理由で、診療所の廃業を考える医師はたくさんいます。しかし、正直に申し上げて、廃業にメリットはありません。手続きが複雑なうえ、多額の廃業コストが発生します。手元に残るお金が1,000万円前後少なくなると、勇退後の生活のゆとりにも影響を及ぼします。このような背景から、最近ではM&Aが診療所の出口戦略として当たり前の選択肢になりつつあります。「廃業かM&Aか」ではなく、「何らかの事情でM&Aがうまくいかなかった場合、やむを得ず廃業を選択する」というのが順当な考え方です。「廃業しかない」と思い詰めていらっしゃる方は、視野を広げてM&Aを検討してみてください。
M&A(第三者承継)なら院長・スタッフ・患者様・地域にメリットがある
M&Aとは、親族やスタッフ以外の第三者を後継者とし、診療所を売却する手続きのことです。売り手・買い手双方の希望をすり合わせ、お互いに納得して初めて、M&Aが成立します。M&Aを選ぶことは、医師やその家族にはもちろん、スタッフや患者様、地域にも大きなメリットをもたらします。
院長にとってのM&Aで売却するメリット
- 廃業コストを負担しなくてすむ。
- 廃業にまつわる複雑な手続きをしなくてすむ。
- 売却益を得ることができ、勇退後の生活にゆとりが生まれる。
- 家族が承継を希望していない場合、喧嘩や摩擦がなくなる。
- スタッフや患者様のことなど、心配事が少なくてすむ。
廃業コストがかからないことに加え、M&Aでは、売却益を得られることもあります。売却益を受け取ることができれば、勇退後もゆとりを持って生活できるでしょう。M&Aでしっかり売却益を確保するには、下準備や交渉が重要です。診療所のM&Aを専門とするM&A仲介会社に依頼し、M&Aを進めていきましょう。
家族間の摩擦が減ったり、スタッフや患者様の今後を心配しなくてすんだりするのも、M&Aのメリットです。大切な診療所を信頼できる相手に引き継ぎ、穏やかな気持ちで勇退後の生活を送れるでしょう。
スタッフにとってのM&Aのメリット
- M&A後も雇用契約は引き継がれるため、 新しく職探しをしなくてすむ。
- 慣れ親しんだ職場で、自分の経験やスキルを活かしながら、引き続き患者様対応ができる。
基本的に、M&A後も雇用契約は引き継がれます。スタッフの雇用を守ることができるのも、M&Aのメリットです。廃業する場合、スタッフにいつ廃業を伝えるかというのも難しい問題です。直前に伝えると、余裕を持って次の職場を探すことができず、スタッフに迷惑をかけてしまいます。かといって、早めに伝えすぎると、スタッフがすぐに転職してしまい医院運営に支障をきたすといったことにもなりかねません。M&Aなら、このような悩みもなく、スタッフも慣れ親しんだ職場で仕事を続けられます。
患者様・地域にとってのM&Aのメリット
- 通い慣れた診療所に引き続き通うことができる。
- 信頼する医師からの引き継ぎを受け、安心して医療を受け続けることができる。
- 地域医療の質を保つことができる。
勇退を考え始めたものの、長年通院してくれている患者様のことを想うと、なかなか廃業を決心できないという医師も多いでしょう。しかし、無理して診療を続けた結果、突然自分自身が倒れてしまうと、患者様にも迷惑や心配をかけてしまいます。元気なうちにM&Aを決心し、信頼できる医師に診療所を引き継ぐことが、結果的に患者様を守ることにもつながるのです。また、診療所が存続することで、地域の医療提供体制を維持できるのもメリットといえます。
診療所の廃業はやむを得ない場合の最後の手段
診療所の廃業は、簡単なことではありません。廃業にあたり、多額の廃業コストもかかります。「後継者がいないから廃業するしかない」という考えにとらわれず、広い視野で診療所の出口戦略を検討することが大切です。診療所の出口戦略には、親族内承継・従業員への承継・M&Aという3つの選択肢があります。親族内承継や従業員への承継が難しかったとしても、M&Aなら誰しも検討する余地があります。
大切な診療所を第三者に引き継ぐという決心は、簡単にできるものではありません。M&Aに慎重になる医師が多いのも、当然のことです。「実際に買い手を探してみて、信頼できる相手が見つかった場合のみM&Aをする」という考え方でもいいのです。勇退を考え始めたなら、早めにM&Aに関する情報収集を始め、必要に応じて専門家に相談しましょう。相談する中で、自分の診療所に最もふさわしい出口戦略の形がおのずと見えてくるはずです。
シンリョウではM&Aを相談できる専任コンサルタント会社のご紹介が可能です。診療所M&Aに精通した専門家が誠実に対応させていただきます。 また、廃業時のお客様のお手間と費用を軽減させるサポートメニューもご準備しております。(カルテ保管・処分、内装原状回復、医療機器売却)
最後までシンリョウがお手伝いさせていただきますので、お気軽にご相談ください。